2021年2月25日、株式会社電通は『2020年 日本の広告費』を発表しました。
『日本の広告費』は、日本国内で1年間に使用された広告費(広告媒体料と広告制作費)を電通が毎年推定してまとめているレポートです。
このレポート中で、2020年における日本の広告費が9年ぶりにマイナス成長を記録したことが発表されました。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で日本経済自体が大きなダメージを受けているため、このニュースにさほど驚かなかった方も多いかもしれません。
しかし細かく見ていくと「インターネット広告費」は、前年に引き続き増加しています。
「ソーシャルディスタンス」や「リモートワーク」など新しい生活様式が定着し、あらゆる活動がオンラインでおこなわれるようになった2020年。
今後の広告戦略を練っていくためにはまず、日本の広告市場において今どのような変化が起きているのかを把握しておく必要があります。
そこで今回は『2020年 日本の広告費』の内容を簡単にまとめ、2021年以降の広告のあり方や2021年に企業が取り組むべきことについて考察しました。
ぜひ最後までお付き合いください。
目次
コロナパンデミックにより日本の総広告費は9年ぶりのマイナス成長
2020年(1月〜12月)の日本の総広告費は、新型コロナ感染症拡大の影響を受け、6兆1,594億円(前年比88.8%)という結果になりました。
これは東日本大震災のあった2011年以来、9年ぶりのマイナス成長ということになります。
また、1947年の統計開始以来2番目に大きい下げ幅です。
特に最初の緊急事態宣言が発令された4月〜6月にかけ、各種イベントや広告販促キャンペーンの延期や中止が相次いだこと、外出自粛でレジャーや外食産業が大きなダメージを受けたことで、広告費は大幅に減少しました。
7月からは徐々に回復傾向を見せ、10月〜12月期には前年程度まで回復したものの、通年で見ると前年を大きく下回る結果になっています。
このデータからわかるように、新型コロナウイルス拡大により、広告市場も例に漏れずダメージを受けたわけですが、その中で唯一前年を超えるプラス成長を記録したものがあります。
それが「インターネット広告費」。
詳しくは次の章で解説します。
広告費の内訳
電通は、日本の広告費を大きく次の3種類に分類しています。
- マスコミ四媒体広告費
- インターネット広告費
- プロモーションメディア広告費
このうち「1.マスコミ四媒体広告費」と「3.プロモーションメディア広告費」が減少したことによって、2020年は日本の総広告費が大きく下がる結果になりました。
以下、電通が掲載している媒体別広告費の詳細です。
また各媒体の詳細については、こちらの表をご覧ください。
それでは3種類の広告費を詳しく見ていきましょう。
広告費の内訳1.
マスコミ四媒体広告費
2020年のマスコミ四媒体広告費は、2兆2,536億円(前年比86.4%)で、6年連続の減少となりました。
「マスコミ四媒体広告費」には
- 新聞:前年比81.1%
- 雑誌:前年比73.0%
- ラジオ:前年比84.6%
- テレビ:前年比89.0%
に投下された広告費が含まれます。
近年続いている右肩下がりの傾向に、新型コロナウイルスの影響による各種イベントの告知減少や宣伝予算の削減が加わり、広告費の減少がさらに加速した形です。
特に2020年開催予定だった「東京2020オリンピック・パラリンピック」の延期は、四媒体のなかで最も構成比の大きいテレビメディア広告費を大きく低下させる原因になりました。
とはいえ「巣ごもり需要」と関連して、業種によっては広告費が伸びているケースも見られ、たとえばラジオにおける「家電・AV機器」や、新聞における「情報・通信」などでは広告の出稿が増加しています。
広告費の内訳2.
インターネット広告費
2020年のインターネット広告費は、2兆2,290億円(前年比105.9%)で、3種の広告費のなかでは唯一のプラス成長となりました。
「インターネット広告費」には
- インターネット広告媒体費(および制作費):前年比105.9%
- マスコミ四媒体由来のデジタル広告費:前年比112.3%
- 物販系ECプラットフォーム広告費:前年比124.2%
が含まれます。
1996年にデータの集計が開始されて以来成長を続けているインターネット広告ですが、2020年は特に4月〜6月にかけて新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けました。
しかし仕事や買い物、娯楽まで生活のあらゆる活動がオンラインに変わったことで、ECサイト(インターネット通販)・SNS・動画配信サービスなどの利用者が増化。
他媒体に先行してインターネット広告費が回復し、結果的にはマスコミ四媒体広告費の2兆2,536億円に匹敵する市場規模にまで成長しました。
特に大手プラットフォーマー(GoogleやFacebookなど)を中心とした運用型広告の需要はますます高まっています。
またマスコミ四媒体由来のデジタル広告費も前年に引き続き増加していることから、従来マスメディアのデジタルシフトが進んでいることが伺えるでしょう。
インターネット広告媒体費の内訳が知りたい方は、2021年3月10日に電通が公開したこちらのレポートをお読みください。
電通 – 『2020年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析』
広告費の内訳3.
プロモーションメディア広告費
2020年のプロモーションメディア広告費は、1兆6,768億円(前年比75.4%)で、大幅なマイナス成長になりました。
「プロモーションメディア広告費」には
- 屋外広告:前年比84.3%
- 交通広告:前年比76.0%
- 折込:前年比70.9%
- DM(ダイレクト・メール):前年比90.3%
- フリーペーパー:前年比72.9%
- POP:前年比84.2%
- イベント・展示・映像ほか:前年比61.2%
が含まれます。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を最も強く受けたのが、このプロモーションメディア広告費でしょう。
2018年から2019年にかけて(前年)はプロモーションメディア広告費は増加傾向にありましたが、2020年はコロナパンデミックが影響し大きく減少。
各種イベントの中止・延期や移動制限・外出自粛により、特に「イベント・展示・映像ほか」や「交通広告」が大きなダメージを受けました。
ただし、新しい生活様式に合わせてデジタルシフトが加速したことで、たとえばオンラインイベントの開催が増え、「イベント・展示・映像ほか」の広告費も10月〜12月期には回復傾向を見せています。
さて、マーケターはこのような2020年の日本の広告費データと、現在の世の中の状況を踏まえた上で、今後日本のマーケティングに起こる変化を予測し、手を打っていかなくてはなりません。
次の章では、2021年以降に広告市場(特にインターネット広告)に影響することが推測される要因をまとめました。
【今後の予測】2021年の広告市場はどうなる?
2021年以降、日本の広告市場はどうなっていくのでしょうか?
結論から言うと、インターネット広告市場がさらに拡大し、その重要性が高まっていくと考えられます。
今後デジタルマーケティングで成功を収めるためには、特に次の3点を抑えておく必要があるでしょう。
- インターネットのマス化
- 動画広告の規模拡大
- インターネット広告の規制加速
それぞれ詳しくみていきます。
今後の予測1.
インターネットのマス化
2021年インターネットのマス化(大衆化)が完了し、インターネット広告市場がさらに拡大することが予測されます。
ここで指す「マス化」とは、インターネット広告費がマスコミ四媒体広告費を追い抜き、インターネットが最も影響力のあるメディアになるということです。
インターネット広告費は、1996年にデータの推定が始まって以来プラス成長を続けており、前年にはテレビメディア広告費を上回ったことで話題になりました。
そしてコロナ禍で社会全体のデジタル化が一気に進んだ2020年。
インターネット広告費が日本の広告費全体の36.2%に至り、マスコミ四媒体広告費に並ぶ規模に達しました。(マスコミ四媒体広告費:36.6%)
2020年は新たな生活様式の定着で特にeコマースにおいて売上が増加しており(たとえば、コロナ禍で以前よりAmazonを使用するようになった人は41%にのぼる)、今後さらにeコマース周辺の広告費増加も見込まれます。
また先ほど解説したように、従来のマスコミ四媒体はデジタルシフトを進めています。
したがって2021年には、マスコミ四媒体広告費とインターネット広告費の立場が逆転するでしょう。
電通が2021年1月に発表した『世界の広告費成長率予測(2020〜2022)』では、2021年には世界的にもデジタル広告費が増加し、2桁成長することが予測されています。
なお、インターネット広告のなかで大きく成長が見込まれているのは「ソーシャルメディア広告」「検索連動型広告」「動画広告」です。
今後の予測2.
動画広告の拡大
2020年には新型コロナウイルス感染症拡大に伴い「巣ごもり需要」が増加し、幅広い世代でYouTubeなどによる動画コンテンツの視聴時間が増えました。
それに伴い動画広告の需要も高まっています。
電通が公開した『2020年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析』によれば、動画広告は2020年に前年比121.3%(3,862億円)の市場に成長しており、2021年には4,263億円に達することが予測されています。
また最近では、FacebookやInstagramといったソーシャルメディアにおいても動画広告が増えてきました。
5Gが導入されたことで今後さらに通信面の障壁がなくなっていので、このような動画広告に加え、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術を活用した広告も増えていくでしょう。
さらに2020年は「コネクテッドテレビ」と呼ばれる、インターネット回線に接続されたテレビ端末ユーザーも増加しました。
コネクテッドテレビ向けに動画フォーマットで配信する「コネクテッドテレビ広告」はターゲティングができることからも注目が集まっており、2021年以降さらに伸びていく見込みです。
今後の予測3.
インターネット広告の規制強化
2021年には、インターネット広告に関する規制がさらに強化されるでしょう。
というのも、2020年には世界的にインターネット上の個人データやプライバシーに関する問題が浮き彫りになったためです。
Googleは2020年1月に、2022年までにサードパーティCookieのサポートを終了することを発表しました。
そもそもCockieとは、Webサイト訪問者の情報を一時的に保存する仕組みで、「ファーストパーティCookie」と「サードパーティCookie」の2種類に分類されます。
「ファーストパーティCookie」が実際に訪問しているWebサイトのドメインから発行されたものであるのに対し、「サードパーティCookie」は訪問しているサイト以外、具体的にはWeb上に掲載されている広告のドメインから発行されます。
そのため「サードパーティCookie」を活用すると、サイトやブラウザをまたいだユーザーの追跡が可能で、これまでに広告のCVトラッキングや、ターゲティングに活用されてきました。
しかしユーザーのプライバシー保護の観点から「サードパーティCookie」は今後利用できなくなっていきます。
またCookie以外にも、インターネット広告をめぐる規制はすでに強まってきています。
2020年にヤフーが発表したデータによれば、2019年度のインターネット広告出稿のうち、掲載基準を満たさず審査落ちしたものは、2億3千万件あったようです。
参照:日本経済新聞 – ヤフー、ネット広告を年2.3億件却下
2020年には日本で改正薬機法も施行されました。
インターネットの影響力が増すなかで、2021年以降さらに媒体の広告審査も厳しくなっていくことが予想されます。
さて、2021年にはこのような傾向が強まっていくことがわかりましたが、企業として具体的にどう動くべきかわからない方もいるのではないでしょうか?
次の章では、中小企業の経営者やマーケティング担当者が2021年に取り組むべきことをまとめました。
中小企業が2021年に取り組むべきこと
2020年のコロナパンデミックにより、すでに国民の多くが情報収集のみならず生活上のあらゆる活動をオンライン上でおこなうようになりました。
先の章で解説したように、2021年もこのデジタルシフトの流れは止まりません。
このような状況下において、企業は当然インターネット広告やオウンドメディアを活用した「Webマーケティング」への取り組みが不可欠です。
たとえば
- 自社サイトがない企業はサイトを作る
- Webやマーケティングの人材を確保する
- Webマーケティングに着手していない企業は取り組む
など、まずはできることからはじめましょう。
もし社内にリソースがない場合、代理店を頼ったり、外注するのも一つの手です。
マーケターであれば、
- 市場が伸びている「動画広告」や「ソーシャルメディア広告」を積極的に活用する
- サードパーティCookieに依存する施策(DSPやパブリックDMP)を避ける
- 法やモラルに反さないクリーンな広告を制作する
など、広告市場の現況から予測されることをもとに、適切なアクションを検討しましょう。
【まとめ】2021年もデジタルシフトは止まらない!トレンドを掴みインターネット広告の運用を最適化しよう
今回は『2020年 日本の広告費』について解説しました。
いかがでしたか?
2021年も変化に富んだ一年になることが予測されます。
世の中のデジタルシフトが加速するなかで、インターネット広告市場はさらに拡大していくでしょう。
この状況下でどのような戦略でマーケティングを進め、広告を活用していくのか、経営陣やマーケターはいま一度検討する必要があります。
その際日本国内のみならず、海外のトレンドにも目を向け、今後の市場の動きを予測するようにしましょう。